森に捨てられていた幼い猫

kazesk2006-06-10

ナムとプンとノノを連れて森と森の間の道を通り抜け、畑の広がる道を一回りし、また森と森の間の道に戻ってきた時だ。右手の森の方から、いかにも幼いとわかる猫の声が響いてきた。明らかに親を必死に呼ぶ声だ。
「あ、子猫が捨てられたんだ!」
私は三匹の犬を、少しはなれた木につなぎ、子猫の声のした方をのぞいた。そこは笹薮が生い茂って見通すことはできない。「ちちち・・・。」と声を出して呼んでみたがもうし〜んとしている。だが確かに子猫の声だった。私は笹薮の中に入っていった。さっきの声は割合道に近いところから聞こえた気がする。
私が踏み込むことで子猫が怯えて森の奥に入ると万事休すなので、あまり音を立てないように、静かにヤブをかき分けて入った。


すると、ダンボール箱が笹薮の中にころがっているのが見えた。捨てられてそれほど経っていないとわかった。ここのところの雨に濡れた感じがなかったからだ。
「あれだ・・・。」と思った私は箱に近づいた。箱は、縦になっている。つまり蓋がこちら側を向いた形になっている。私は扉を開くように蓋を左右に開けた。
小さな猫が二匹、ぴったりと身体をよせあっている。白い子と濃い灰色の子だ。白い子が、ハーッ!ハーッ!と威嚇してくるのが哀れだった。
私は箱ごと拾い上げ、犬たちはつないだままにして家に向かった。犬が置いていかれると思ってか、「おーい、どうしたんだワーン、おいてあないでワーン!」とわめいたが、「ちょっと待って!」と言って私は家に急いだ。
居間に箱ごとおいて、またすぐに森に戻る。木につないで犬たちの散歩を続け、そこ子たちを家に連れ帰ると、次の犬の散歩は後にして、一人でさっきの森に戻った。子猫は二匹だけのはずがない、と思ったからだ。必ずまだいるはずだ。猫は一回のお産に三匹以上は生む。二匹だけということは珍しい。
また捨てる人でなしは、生まれた子を全部まとめて捨てるヤツが殆どだ。
森に戻って、「ちちちちち・・・・・・。」と根気よく呼ぶ。しばらく呼んでいると、「ニャァ〜」と声が応えた。私は、急いでまた笹薮の中に入っていった。さっきより慎重にしなければならない。箱から出ているわけだから、怖がらせては本当に森の奥にかけこむ可能性がある。そうなっては、二度と見つけるチャンスはないだろう。「ちちちち・・・・」「ねこや・・・・・」と柔らかく呼びながら奥に進む。幸い、猫は私の声に応えてずうっと鳴いていてくれた。それで見つけることができた。二匹。木の根元でひしと寄り添いあっていた。


目はくしゃくしゃで、一匹の子は目がふさがっているくらいだ。哺乳瓶に、パンをひたして温めた牛乳を入れて飲ませる。白い子はなかなか頼もしくて、ハーッ、ハーッと激しい威嚇をしてくるが、その口に哺乳瓶の乳首を入れると、うなりながらも喉をゴロロロロとならしながら必死で飲む。他の三匹は威嚇もせずすぐにニャァニャアと甘えながら飲む。
犬の散歩がみんな終わってなら、夫とスーパーに買い物に行き、子猫の離乳食の缶詰を買ってくる。
子猫たちは、生後二週間から三週間の間だろう。歯がやっとはえたところのようだ。歯が出れば離乳食を中心にしていい。


それにしても、私はもうすぐ仕事にかからねばならない。深刻な事情を抱えて、どうしても例えわずかでも毎月収入のある仕事が必要なのだ。
要介護4の認知症の夫と、18匹の犬、もっと数の多い猫を抱えた私の生活がどれほどの辛苦のものか、人でなしには言ったところでわかるまい。