トイレの怪

丑三つ時のことである。


私はなぜこんな早い時間に起きているかと言うと、ちょっと不審なことがあって起きてしまったのである。そもそも昨日は夫をグループホームに一晩のショートスティをお願いして東京まで出かけ、ほんとに疲れてしまい、今夜は(夕べはと言うべきかな)夫もいないから安心して朝遅くまで眠るつもりであった。
先ほどの3時半頃トイレに起きたのだが、そこで”不審”に合ったのだ。トイレの便座があがっていたのである。
私は使った後、必ず便座を下ろす。どこのトイレでも必ずそうする。なのに便座があがっていた。
夫は便座をあげたままにしているので、夫がトイレを終わった後は、私は便座を下げておく。なのに夫はいないのにあがっている。
おかしいではないか! うちにいるのは猫だが、猫がやったか? 犬か? そんなはずはない。
普段暢気で何事も気づかないままのことが多い私でも、これはちょっと嫌な気分だ。どう考えても、誰かがトイレを使ったということだからだ。外出から帰った後も、休む前もこうはなってなかった。
ということは、私が就寝中に誰かがトイレに入ったということではないか。
猫か? 犬か? やっぱりそんなわけはない。人間、それも便座を全部あげて使う男性である、と考えられる。
ということは、家の中に誰かがいるということか?


そこでハタと思ったのは、何時だったかに、犬が表側にいるものも裏側にいるものもみんなが激しく吼えたっけ。私は近所迷惑なので、すぐに家の中から「静かにしなさい!」と怒鳴って大人しくさせたのである。(私のこういう時の真剣な叱り声はぴしりと効く。必要な時には厳しくしつけておかなくては、私たちは人の中で生きていけない。)
『あの騒がしかった時、誰かが外から二階に上がった、かしらん?』
我が家は、塀にすれすれに物置が立っている。だから塀から物置の屋根に簡単に上がれる。そこから二階のベランダに上がるのは、現在の身の重い私でも軽々上がれる。その気になれば。


誰かがその気になって、二階に侵入しているのではないか?・・・・・とここで思考は停止している。そうとしか考えられないからだ。一階は一応全部見て回った。残っているのは二階だけなのだ。
そう思うと、こうやってパソコンに向かっている間も上で足音がしているような気がする。


昔取った杵柄の剣道の竹刀を手元に持って、これから二階にあがってみようかしらん。
ウーム、こんなことなら家の清掃をやっておくんだった。ここで不慮の死をとげるようなことになったら、みっともないざまだゾ、こりゃ。ゴミ屋敷より汚いゾ。
それより、見るからに金目のものはなさそうな我が家になんで侵入してくる?


さて、二階を探検してきた。誰もいず、何事もなかった。
こんなことならさっさと眠るのであった。
・・・思うに、あの便座はどういうことだったのだろう?
マジで私の仕業ということになるが、私は本当に便座があがっている状態が嫌いで、たまに公共のトイレが蓋がついてない形だったりすると、蓋をしないでいるのが不快に感じるぐらい蓋をしたい。そのくらい蓋をしめる習慣が硬いのである。
なのに、今回に限り、用事が終わると蓋をしないで逆に便座を全部あげて、出たということになる。
そこで思うのだけど、何か事件があると、マスコミが推測する過程で、「こんなことはするわけがない・・・どうのこうの・・・。」「こういう行動はあり得ない、するわけがない・・・なんたらかんたら・・・。」と言い切っていることが多いが、そういうあり得ない論こそあり得ない、ということがわかった。いや、私がオカシイということがわかった、ということかも。


どちらにしても結構含蓄あるトイレの怪であった。