猫が指を噛み千切った事件考

この事件に触れるのは意識的に避けていたのだが、ノエルさんのブログで取り上げておられてコメントしたので、その勢いでここにも書いておくことにした。
私は、猫が、人間の指を五本一時に噛み千切ることはあり得ないと思っている。猫が好きだから身びいきでそう思いたがっている、のでは断じてない。私の長い間の数多くの猫との交流の中からの冷静な認識である。
私はかって、ノラという猫に、手の甲をしたたか噛まれたことがある。かなり強い力で噛まれて、骨と骨の間に牙が入り込み、なかなかノラを振りほどけないほどであった。やっと振り落としたが、その痛みは尋常でなく、そして、たちまち腕の半分が色を変えて腫れ上がった。すぐに車で病院に行こうとしたのだが、もはやハンドルを握ることができないほどの腫れと痛みで、私はスカーフを三角にして腕をつり、そろそろと歩きながら何十分もかけて病院に行かねばならなかった。この時、なんでノラがこのような恐ろしい噛みかたをしたかと言うと、当時小学校低学年だった息子が犬を拾って家に入り、その時ノラは子育て中(小さな生まれたての子猫が捨て置かれ、その子を哺乳瓶で面倒みていたのだが、ノラがすっかり母親になったように付き添っていたのだった。)で、はじめてみた犬に驚き、子猫を守ろうとしたのだと思うが、犬に必死の形相で飛び掛ったのである。私は驚き、咄嗟に手を出して犬をかばったのだが、ノラは私の手と知らず、全力で噛み付いたのだった。(余談ですが、後にその犬は捨て犬ではなく飼い主の方が見つかり、何事もなく帰っていきました。またノラは、噛み付いたあと、私を噛んだとわかり、かわいそうなくらいしょんぼりしていました。)
この時の経験で、猫が命がけで敵とみなしたものにかかった時は、そうとうの力だと思い知った。そこで、この老人ホームでのことで言えば、この被害者の方が、猫に敵愾心をおこさせるなんらかのことがあり、猫が自分を守るためか、相手を倒そうとしたかで襲ったとしたら、指を噛み千切るぐらいの力はあるだろうと思う。
だが、五本の指を次々と噛み千切った、ということになると、話は違う。このようなことはあり得ない、と思えてならない。なぜなら、猫はその時の怒りや命がけの保身で、相手に致命傷を与える牙の力はノラの体験であると思うが、別の体験から見て、噛み千切る行為がやすやすとできる機能を持っていない、と思えるのだ。別の体験とは、例えば、とんかつなどが残って、細かくしないで与えた場合、それを噛み千切って食べる、という行為はどの猫も実に下手なのである。犬のジャーキーなどになると、噛み千切れなくて食べるのを諦めるくらいである。
私はこうしたことから、空腹を満たすために、指を噛み千切った、というニュースはただただ驚き、信じられない思いがわいてくるのみなのである。

だが、これは私のわずかな体験の上での認識であって、世の中には私などの知らない、思わぬ真実はたくさんある、むしろ知らないことだらけだ。ニュースの猫が、このようなことを本当にしたのかも知れない。・・・警察は、よく検証して、真実をつきとめて欲しい。これは猫をかばいたいという上でのことだけではない。冤罪が許されないのは、無実の罪を人にかぶせることが許されない、ということであるが、それ以上に、”『真実』を裏切る”ということは、人間の尊厳をかけて許してはいけないことでしょう。そして、真実に蓋をして終わる、このことは、社会に毒をまくことでしょう。指を噛み切ったと思われる猫を殺処分して終わりにするようなことには絶対して欲しくない。