第二十三回 本能寺

ついに舘信長、撃たれましたね。最後までモダンな美学を貫きました。殺陣もフェンシングのような雰囲気がありました。これまで私は、舘ひろしは暢気さがあって、とにかく、”狂気”に最も似合わない人のように思っていたのですが、それを鋭くぎらぎらと大きく演じきりましたね。功名が辻の信長の演出は、舘だからこそ通用したとすら思いました。


最後の最後に、信長と濃(和久井映見)はひとつの愛の形を完成させました。
信長が血に染まって倒れた時の濃の言葉、「殿の名は永久(とわ)に残りましょうぞ。」は志半ばで倒れた英雄への最高の餞となりました。明智光秀坂東三津五郎)の後の敗北はここでもう決まっていたと言ってもいいかも知れません。
光秀は、彼自身、濃が信長とともに戦い死んでいったことで、自分の足下がくずれたような喪失感を感じたのではなかったか、と思いました。


史実に重きをおくと何かと気になる筋書きかも知れませんが、大石静のドラマとして観ると、信長、光秀、濃、そしてこの回の光秀の妻槇(烏丸せつこ)たち登場人物を通して、さまざまな対立、運命に逆らうものと運命に流されるもの、価値観に己の全てをかけるものと価値観そのものを崩そうとするものなどを描き出し、魅力的な人間ドラマにしていると思います。


光秀が、信長を倒した後、城で空ろともいえる様で「信長を殺すだけでよかったのだ。」と言うのを、これまでただ夫のうしろについているだけに思われた槇が、「天下をおとりになる好機ではありませんか、しっかりして下さい。あなた様が天下をとれば、いい政策をしいて、みなを幸せにする。」と叱咤に近い励ましをする場面は、やはり光秀への最良の餞となり光っていましたね。それぞれの重いものを背負う夫に、それぞれの妻にこの餞をたむかせる。大石静の人間愛を感じました。
槇のあの言葉は悲しかった。槇もまた絶望的な不安に襲われる中、あのように夫を叱咤しないではいられなかった。烏丸せつこは、控えめに見えて、熱さを感じました。


今回、これまでイマイチよくわからなかった秀吉の妻寧々(浅野ゆう子)像がはっきりしました。彼女はやはり天下様の妻たる人物でした。信長が死んだ後、千代(仲間由紀恵)とともに、家臣の家族、領民を長浜からよそに逃がした手腕は、本当に賢く意識が高く頼りがいがあると見えました。しかも実にクールでかっこよかったです。
本来、寧々はこのドラマの千代のキャラクターや存在感であることが多く、それなのにここでは千代がいるから、独自の寧々をつくり仕上げなければならなかったかも知れない。その寧々を浅野ゆう子は見事に作り上げていると思う。


六平太(香川照之)はこの回はスーパーマン風にはなれませんでしたね。彼が命じた使者が毛利にいくはずが迷い、山内一豊上川隆也)のもとで倒れこんでしまい、信長死去の報を秀吉にとられてしまう。何で自分で行かなかったのだろう。忍びの仕事のはずなのに。(もっとも六平太が行っていたらヘマはしないから、歴史が変わっちゃいますけどね)
もし、使者が迷わなければ秀吉は信長の敵をとった”正しい家来”とはならなかっただろう。
ドラマの中では、一豊が運を運ぶ縁起のいいヤツとなっていましたが、実際は、光秀が運のない人間であったのだろう。まさに彼は、天から、信長を殺すためだけの役割をさせられた。毎度書くが、三津五郎はこうした光秀の苦渋、儚さをよく出しておられたと思う。(どんな無理してでもまた歌舞伎を観に行きたくなった。何を隠そう、こう見えても私、夫の介護が始まるまで歌舞伎座によく通うファンでした。)


信長の敵を討つ立場を得ようと、備中高松から怒涛の如く一日20里を駆けて戻る秀吉(柄本明)と一豊の姿に重ねたナレーションがよかったですね。『足軽雑兵に至るまで歴史の桧舞台に立っていた』
秀吉は信長の死を悲しみながらも、この機を逃してなるものか、わしが信長の後を継ぐ、という野心でいっぱいになっている様を、柄本明はすごい存在感で演じていました。


秀吉とともに馬で疾走する一豊の表情がいつもながら素敵でした。迫力あったし信長への追憶と野心で、かってない輝きを見せていました。思うに、子供や女性を切るといつまでも苦しみ、武士とは何か、戦いをなぜしなければならない? と悩んできた一豊が、己のやるべきことをやっていくしかないのだと、ここで全てを吹っ切ったのではないでしょうか。上川隆也の表情にはそうした確かなものがありました。
足利義昭三谷幸喜)の、信長の死に狂喜する姿も凄かった。人間の恨みの骨髄を具現化したような・・・。
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今週は筋書きを追うのを止めました。NHKの『功名が辻』公式ホームページにあらすじが掲載されていると知ったからです。筋書きを知りたい方は、ホームページを観てみましょう。URLは
http://www.nhk.or.jp/taiga/


さて来週は光秀の死でしょうか。竹中半兵衛が死に、信長が死に、光秀が死んで、寂しくなります。