第二十七回 落城の母娘

今回の物語は、信長の妹、市(大地真央)が嫁いだ柴田勝家勝野洋)が秀吉に負け夫婦で自害し、城が落ち、市の三人の娘が一豊(上川隆也)に救い出されて秀吉(柄本明)のもとに連れて行かれるのが中心であるが、印象に残った場面を順を追って書いてみたいと思う。


■タキ(細川ふみえ)の運命
タキは、愛する吉兵衛を伊勢、亀山城攻めで失い、千代(仲間由紀恵)に寂しげな後姿を見せて去るのであるが、後に実家で自害をする。それを千代は、吉兵衛の弟(小倉)によって知らされ、実家に帰すのではなかったと悲嘆にくれる。・・・・・細川ふみえは、”慈愛”というものを演ずることのできる数少ない女優ではないかと思った。大らかな善性を本当に感じる人だ。


■市(大地真央)と勝家(勝野洋)の最期
市と勝家は心を通わしたいい夫婦だった、とするドラマは多いが、今回もそのように描かれていた。最初市は、信長の後を秀吉に奪われるのが許せず、それを阻止するために勝家に嫁ぐ、と自ら言い切っていたのだが、最期を迎え、市は勝家に、「雪に閉ざされたこの地の暮らし、殿のお心によって、はじめて静かな暮らしの素晴らしさを知りました。市は兄、信長のためだけに生きていましたが、今は違います。市ははじめてまことの女性(おなご)になりました。」と心情を明かす。そして二人は互いに刺して死ぬ。・・・・・光秀と濃についで、この究極の愛の具現を、勝野洋は澄んだ目に男らしさを深く滲ませ、大地真央は凛と張り詰めた美しさで果たした。脚本と演出は、こうやって人間の”生”の美しさを表現しているのだと理解している。


■秀吉(柄本明)と寧々(浅野ゆう子
着々と野望を遂げている秀吉と寧々! 秀吉はマンガチックに可笑しくもあり怖いっす。(ちょっと行き過ぎ?)寧々の眼差しの生々しい冷たさ。これは説得力あるなぁ。妻のこうした支援がなくては”秀吉”にはなれない。


山内一豊上川隆也)と千代(仲間由紀恵)の場合
私は毎回、この主人公二人に深く同情する。上川隆也仲間由紀恵も素晴らしい俳優なのに、見せ場というか働きどころがない! ではないか? 史実に詳しい方の説に寄ると、『史実的にこの二人の功績が遺されているわけではないので、思わぬ場面に出ていたりする』という意味のことらしいのであるが、そうやって居るはずのないところに現れていても(例えば今回で言うと、市の救出に市の前に出るとか)、影が薄い! 私はこのことは大いに不満! 
勿論、場面によって、この人ならではの輝きはある。先週の、吉兵衛が死ぬ場面は、上川隆也以外の人ではあのまさに魂をえぐられる悲しみは演じられないだろう。千代の底抜けの明るさや温かさも仲間由紀恵だからこそだ。
だけど、二人の力や魅力を充分に生かす『物語』がない。他の人物のための物語の引き立て役になってないか?


でも今回、秀吉は、これまで小姓としていた若者が育ってきて、その者たちを重く用いる気配が出てきたことから、一豊の立場が微妙になり、陰がさしてきたのであるが、ということは、今後、上川隆也の芝居が観れるということで嬉しいゾ。これまで清廉、純朴、生一本だった一豊の屈折があわられるということで、面白くなるのではないかなぁと。仲間由紀恵は、先週ぐらいから大人の女性の懐の深さを感じさせてきたし、これから二人は、主人公として輝くに違いない。


ここでふと思ったのだけど、本来特別なヒーローというわけではない人物を、ヒーローがいっぱいいる中で演じるのだから、その苦労は大変だろうな、と。そこを考えると、上川隆也仲間由紀恵は凄い! 物語作りの上では影が薄い働きどころでしかないが、存在感そのものは誰にもひけをとらず光っているのだから。


■茶々(永作博美)登場
このドラマのキャストの発表で、私が最も期待したのがこの永作博美の茶々。これまでの茶々と全く違うタイプだからだ。その茶々が、いよいよ登場! 美しいとは言い難いが、コケテッシュでキュートで勝気な茶々である。これからが楽しみ!


■なんたって中村橋之助(石田光成)
ナレーションで、石田光成を、『義の人』と称していた。それなら橋之助がピッタリだ。この人、馬の目のような目をしている。きりっとした形ながら潤んで、それが状況や事態によって、どのような光を帯びるのかわからない深みがある。光成というと出世欲のある小物として描かれることもあるが、ここではそうはならない。
なんたって橋之助! だもの。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今週もお薦め『功名が辻
綾川亭日乗 http://d.hatena.ne.jp/andy22/20060709/p3
ここの管理人さんの博識と巧みな表現にはいつも感歎させられていますが、今回歌舞伎にも精通されていることがわかり、これがまたほんとに面白い! 


日本史日誌 http://d.hatena.ne.jp/sanraku2/20060709/d1
吉兵衛の弟(小倉演じる吉蔵)のことなども書いてあって、(そうなんだぁ)と興味津々で拝読している。


毎度観に行くガラマニさんのブログ http://d.hatena.ne.jp/garamani1983/20060710/1152463614
ガラマニさん、今回、何となく元気がない。香川照之さんの小平太にご無沙汰だからなぁ・・・。