第三十五回 北条攻め

秀吉(柄本明)の天下統一の総仕上げとも言うべき北条攻めにまつわる三成(中村橋之助)と秀長の意見の対立、徳川家康西田敏行)に、「我らが手をくんで秀吉を討とう。」と迫る信長の息子の信かつなど逼迫した場面が続くが、何と言っても、今夜の見所は、副田甚兵衛(野口五郎)と旭(松本明子)の場面だろう。特に野口五郎


祭りで賑わう城下をひろいを抱いて歩いていた千代(仲間由紀恵)は、ふと見覚えのある男を見かけてそちらを振り向く。うらぶれた姿で針を売り歩いている甚兵衛だと気づく。急いで城に戻り、手箱から何かを取り上げる千代。それは、旭が家康に嫁いでいくまえ、千代に代筆させた甚兵衛への手紙である。
千代は、甚兵衛にそれを渡そうとする。が甚兵衛は自分はそういう者ではないと言い、また旭などという者も知らぬ、と言う。強引に手渡す千代。「知らぬ、知らぬ。」と言いながらもその手紙を持って立ち去る甚兵衛。


その夜。甚兵衛は、宿を抜け出て月明かりの下で手紙を読む。
「じんべえさが生きておられると思えば、おらも生きてゆける、どうぞ、生きてくだされ・・・・・。」
白々とした月の光のなか甚兵衛の瞼から茫々と溢れる涙。
ここの場面は舞台仕立ての演出で甚兵衛の心のうちを映し出し美しかった。また野口五郎の、内面の慟哭を抑えに抑えた震える表情は胸を打った。
そしてこの後、千代が、病の床に伏している旭のもとに、甚兵衛を連れてきて名乗らないながら再会を果たさせるのだが、松本明子は実際に頬がこけもはや生命の火が消えかけている様を、渾身の演技で見せた。
私は今回は、この二人の場面を観ただけで満足した。


とは言え、我らが一豊(上川隆也)は久々の斬り合いのある戦に出て、水を得た魚のように生き生きとしていてよかった。千代も快調といえる輝きだった。