ついてない女

病人の介助のある身では、9時からの番組を冒頭からちゃんと観ることはなかなか出来ない。水曜日は相棒が観たいので夫の就床を早めに準備したいところだけど、そういうわけにも、ね。というわけで、今夜も事件の発端を完全に把握していない。

女(鈴木杏樹)が男に拳銃を向けている。男は犬を抱いて、女を見下した態度で牽制している。大きな蛇のいる柵がある。・・・・・これからがどうかなったのだろうが、そこを観れなかった。女が車を出そうとしているがエンジンが故障らしい。女は、車の様子を見てくれている男に、「飛行機に乗りたいのだけど、間に合うかしら。」というようなことを言う。男が、ひょいと顔をあげて、「大丈夫っすよ。」と答える。薫ちゃんである。女は、薫ちゃんに、「私ってついてますよね。」と不思議な言葉を発する。薫ちゃんは、「ついてますよ、ね!」と横に向かって相槌を求める。「はい、そのようですね。」と車の下をのぞいていたらしい我らが右京さんが顔を上げる。

結局、車は直らなくて、女は薫ちゃんの車に乗って成田に向かう。「あそこは駐車禁止帯ですが、車は大丈夫でしょうかね。」と心配する右京さんに、女は、「親戚にとりに来るよう言っておきましたから。」と女は答える。女は香港に高飛びをするつもりである。ほんとは壊れた車などどうでもいいのだ。女は、夫を殺され、復讐のために男を殺したのだ。

薫ちゃんの車の中で、右京さんは、女のスタイルに気を止める。女はブランドを身にまとっているのだが、なぜかコートは青いベンチコートである。「今の流行なんですか。ブランドの服の上にベンチコートを着るのは。」と右京さんは訊く。「ええ、これ温かいから好きなんです。」と女は答える。実際は、彼女のコートは、拳銃を撃った時に男の血がはねてついてしまったのだと、視聴者にはわかっている。

こうしたやりとりをしている中で、女は、右京さんと薫ちゃんが警察の人間と察知する。その後、女は、新宿からリムジンバスに乗って成田に行く、と言って右京さんたちと別れる。女の後姿をずうっと追っている右京さんの目。・・・・・ここで右京さんが、女に不審を抱いていることはわかるのだが、”何”に対してだったのだろう。新聞のテレビ欄では、『二人が警察官とわかると車を降りたことから疑いを持った』ように書いてあったがこれだけで?

女はバス停に行く前にコートを買い、バス停のそばのベンチに、それまで着ていた青いベンチコートを置いてバスに乗り込む。発車するバス。心なしかほっとして見える女の表情。
が、すぐに女の顔は曇ることになる。右京さんがベンチコートを持って、バスを止め乗って来たのだ。「このベンチコート、お好きだと言われてましたので・・・。」
右京さんは、ベンチコートの存在が、返り血を浴びた結果であると洞察していた。そして、携帯メールで薫ちゃんと情報をやりとりし、薫ちゃんが物的証拠を見つけるのを待っていたのだ。それは、女が搭乗してしまう前に見つけなければならない。想像だけで、女を止めることは出来ないのだ。

このバスでの右京さんは、執拗に女に食い下がり、女を追い詰めていく。ここから成田に着いて、女が搭乗口に今や入らんとするまでの、二人の息詰まる攻防が見ものである。とは言っても、重苦しい展開にはならない。鈴木杏樹のほんわかとしたキャラクターと、右京さんのジェントルマンな追及はおかしみをたたえてお洒落である。それでいて緊迫感は高まっていくのだ。こういうところが、『相棒』の質の高さなのだ。

女がついに右京さんの手の届かない中に入ろうというその時、薫ちゃんは、男の家をつきとめ、台所の床下収納庫に横たわる男を見つける。右京さんの手が、女の手をつかむ。
女は、「ついてない。」とぼやく。右京さんと薫ちゃんは言う。「そんなことありません。」「そうですよ。男は生きていたんです。あなたは殺人犯にならなかった。ついているんですよ。」

・・・・・というわけで、今週も面白く観たのだが、さっきも書いたように冒頭を観なかったので、ひとつ疑問がおきている。女は、走っていて、途中で車が故障したのかな? もし、男を殺して、発車させようとしたが発車できなかった、のだったら、殺しの現場はあの近くだってすぐわかる。だから薫ちゃんが必死で電話をかけていた被害者の可能性のある人たちの住所が、あの近辺の住所と近ければわかるわけだけど・・・やっぱ、現場はすでに離れていたのでしょうね。・・・としても、成田に行く道順を考えれば、住所は絞られると思うがなぁ。・・・ま、いいか。