犬の風景

+跳びつく犬
夫をディサービスの施設に送り迎えする時、よく会う犬がいる。茶色のブチ模様の20キロぐらいの大きさで、かなりの高齢という感じの犬である。
いつも、70代ぐらいの人間の男性と一緒にボツボツと歩いている。
その犬は、車で横をすりぬける私と目が合うと、決まって跳び掛ってくるのである。一緒の男性がすばやくロープをたぐって、車に接触しないようにしているが、うっかりすると危険な状態になりそうなほどの跳びつき方である。
理由はわかっている。彼は、私がかって犬でいたことがあったのを知っていて、「あ、お前、犬なのに人間みたいに車なんか運転して!」と気を悪くしているのだ。
それで私はいつも、「へッへ、バーカァ〜」と悪態をついてすり抜ける。


+Hさんちの三頭の犬
Hさんちの放し飼いにされているワンコは、しょっちゅう子犬を産んで、自分より大きくなった子犬とあたりをブラブラしている。最近、毛が長くて、顔にふさふさとかかっている、エート、なんと言う種類だったかな、とにかく映画などにもよく出る洋犬の子供二頭をつれてやってくる。
生き物のことになると心配性の私は、ワンコも二頭の毛のふさふさの洋犬風の犬もでかくて目立つので、今に誰かに何かされるのではないかと気がかりでならない。
と、今日は、やや小さい方の洋犬風の犬がいない。「捕獲されて酷い目に合わされたんじゃないかな。」「もしかしたら、誰かに貰われていって、幸せに飼われることになったのかもしれない。きっとそうだ、そうに違いない。」「あの犬だけ、Hさんが庭にちゃんと繋いでいるのかも知れない。部屋に入れてるのかもしれない。」などなどなどなどうだうだうだうだと思い悩んでいる。
Hさん、責任持って飼ってやりましょうよ。そうしてやらなくては、守れないでしょ。守ってやろうよ。飼い主だよ、あなたは。


+コーバくん
夫が行ってるディ施設の隣りの工場にいたコーバくん。この前、訪ねたら姿がない。世話をされている従業員の人に訊いてみた。そしたら、「死んだんだ。散歩に行こうとしてロープをつける時、うっかり放してしまってね、道路に飛び出して車にぶつかってしまった。」と答えがかえってきた。
その人は、とても寂しそうだった。私も寂しくてならなくなった。でもその人が、「俺が殺したと同じだよね、気をつけてやればよかった。」と思いつめた顔で言われたので、「そんな風に思っちゃだめ! あの犬は、飼い主が見捨てたのを、あなたが一生懸命めんどうをみてきたじゃない。幸せだったのよ。」と私は怒った。
でも、コーバくんのことを思うと今でも涙がにじんでくる。友達だったもの。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー