坂東真砂子さん　子猫を日常的に殺すと言う

姉とも慕っている従姉妹の死を思って、しばらくブログを書けないと思っていたのだが、今日三日ぶりに開いた受信ボックスに、アニポリの管理人さんからＭＬが入っていて、そこに、直木賞作家の坂東真砂子さんが、日常的に子猫を殺しているというエッセイを発表されているということが書いてあり、リンクされていた『きっこのブログ』に全文が掲載されてるとあったので、いやでたまらなかったがついのぞいてしまい、結局それについて私なりの考えを書くことにした。
まず、その全文を紹介します。このエッセイを読みたくない方のために、ライブドアニュースの方も出しておきます。最初にこちらから。

ーーーーーーーライブドアニュース　ここからーーーーーー
2006年8月18日付け日経新聞（夕刊）「プロムナード」に掲載された、直木賞作家・坂東眞砂子さんのエッセイが、ネット上を騒然とさせている。「私は子猫を殺している」というのである。坂東さんの掲示板では、06年8月19日にエッセイのコピーが書き込まれてからコメントが突如急増し始め、坂東さんへの批判が怒号のごとく続いている。

騒ぎになっているのは「こんなことを書いたら、どんなに糾弾されるかわかっている」という文章ではじまる「子猫殺し」と題されたエッセイ。
タヒチに住んでいる坂東さんは、家の隣の崖の下の空き地に、子猫が生れ落ちるやいなや放り投げているという。

「社会に対する責任として子殺しを選択した」

「子猫殺し」が掲載された2006年8月18日付け日経新聞。ネット上は糾弾の声で溢れている
内容は以下のとおりだ。

猫に言葉が話せるなら、避妊手術など望むはずがないし、避妊手術を施すのが飼い主の責任だといっても、それも飼い主の都合。「子種を殺すか、できた子を殺すかの差だ。避妊手術のほうが、殺しという厭なことに手を染めずに済む」。そもそも、「愛玩動物として獣を飼うこと自体が、人のわがままに根ざした行為なのだ。獣にとっての『生』とは、人間の干渉なく、自然のなかで生きることだ」。人間は、避妊手術をする権利もないし、子猫を殺す権利もないが、「飼い主としては、自分のより納得できる道を選択するしかない」。

最後は、

「自分の育ててきた猫の『生』の充実を選び、社会に対する責任として子殺しを選択した。もちろん、それに伴う殺しの痛み、悲しみも引き受けてのことである」
と締めくくられる。

坂東さんの「どんなに糾弾されるかわかっている」という予想通り、エッセイへの批判や怒りがネット上で噴出している。
ーーーーーーーーーーここまでーーーーーー

ーーーー坂東さんのエッセイ　ここからーーーーー
　「子猫殺し」　　坂東眞砂子

　こんなことを書いたら、どんなに糾弾されるかわかっている。世の動物愛護家には、鬼畜のように罵倒されるだろう。動物愛護管理法に反するといわれるかもしれない。そんなこと承知で打ち明けるが、私は子猫を殺している。
　家の隣の崖の下がちょうど空地になっているので、生れ落ちるや、そこに放り投げるのである。タヒチ島の私の住んでいるあたりは、人家はまばらだ。草ぼうぼうの空地や山林が広がり、そこでは野良猫、野良犬、野鼠などの死骸がころころしている。子猫の死骸が増えたとて、人間の生活環境に被害は及ぼさない。自然に還るだけだ。
　子猫殺しを犯すに至ったのは、いろいろと考えた結果だ。
　私は猫を三匹飼っている。みんな雌だ。雄もいたが、家に居つかず、近所を徘徊して、やがていなくなった。残る三匹は、どれも赤ん坊の頃から育ててきた。当然、成長すると、盛りがついて、子を産む。タヒチでは野良猫はわんさかいる。これは犬も同様だが、血統書付きの犬猫ででもないと、もらってくれるところなんかない。
避妊手術を、まず考えた。しかし、どうも決心がつかない。獣の雌にとっての「生」とは、盛りのついた時にセックスして、子供を産むことではないか。その本質的な生を、人間の都合で奪いとっていいものだろうか。
　猫は幸せさ、うちの猫には愛情をもって接している。猫もそれに応えてくれる、という人もいるだろう。だが私は、猫が飼い主に甘える根元には、餌をもらえるからということがあると思う。生きるための手段だ。もし猫が言葉を話せるならば、避妊手術なんかされたくない、子を産みたいというだろう。
　飼い猫に避妊手術を施すことは、飼い主の責任だといわれている。しかし、それは飼い主の都合でもある。子猫が野良猫となると、人間の生活環境を害する。だから社会的責任として、育てられない子猫は、最初から生まないように手術する。私は、これに異を唱えるものではない。
　ただ、この問題に関しては、生まれてすぐの子猫を殺しても同じことだ。子種を殺すか、できた子を殺すかの差だ。避妊手術のほうが、殺しという厭なことに手を染めずにすむ。そして、この差の間には、親猫にとっての「生」の経験の有無、子猫にとっては、殺されるという悲劇が横たわっている。どっちがいいとか、悪いとか、いえるものではない。
　愛玩動物として獣を飼うこと自体が、人のわがままに根ざした行為なのだ。獣にとっての「生」とは、人間の干渉なく、自然の中で生きることだ。生き延びるために喰うとか、被害を及ぼされるから殺すといった生死に関わることでない限り、人が他の生き物の「生」にちょっかいを出すのは間違っている。人は神ではない。他の生き物の「生」に関して、正しいことなぞできるはずはない。どこかで矛盾や不合理が生じてくる。
　人は他の生き物に対して、避妊手術を行う権利などない。生まれた子を殺す権利もない。それでも、愛玩のために生き物を飼いたいならば、飼い主としては、自分のより納得できる道を選択するしかない。
　私は自分の育ててきた猫の「生」の充実を選び、社会に対する責任として子殺しを選択した。もちろん、それに伴う殺しの痛み、悲しみも引き受けてのことである。（作家）
ーーーーーーーーーここまでーーーーーーーー

坂東真砂子さんについて私が知ってることといえば、ホラー小説を書かれていること、直木賞を受賞されたということ、それから、ＮＨＫの大河ドラマに『功名が辻』が決まった時、地元の高知でお祝いムードになったそうだが、それに対して、「山内一豊は、もともとの領主、長曽我部一族を騙して桂浜で大虐殺をした人物、それを何で祝うか。」と喝を入れたと、ブログ友達のmiyataさんから教えられたことだ。

そこで子猫殺しのことだが、これを読んで真っ先に感じたのは、『これで日本の人間とともに暮らす動物についての思想と慈愛心の進化は、１００年後戻りするだろう。』ということだ。
この人が、『人は他の生き物に対して、避妊手術を行う権利などない。生まれた子を殺す権利もない。それでも、愛玩のために生き物を飼いたいならば、飼い主としては、自分のより納得できる道を選択するしかない。　私は自分の育ててきた猫の「生」の充実を選び、社会に対する責任として子殺しを選択した。』と書かれていること自体は、坂東真砂子という個人の自己責任をもって選択した、という意味において理解できる。
だが、この人のこの選択と決意と実行と言い草は心の底から軽蔑するね。
自分の慈愛心と想像力の欠落と浅慮を、作家的な言い回しでもっともらしく人生観、動物観、死生観に偽造粉飾しているだけだ。

坂東さん、あなたが言われる通り、人間に、動物の避妊手術をする権利などないですよ。この行為は本当に傲慢で欺瞞で冷酷ですよ。私は本来生き物を所有したい感覚がなくとにかくペットを飼いたいなど思わないのだが、大勢の人が捨てにくるから結局飼っていますが、この避妊手術をするにあたって、自分が深い罪を犯していると、このことで私は死んでも天国には行けないな、と覚悟してますよ。
ここのところであなたが崖下に投げ落とす行為と、もしかしたら変わりはないのかも知れないと思わなくもない。
でも、違う。殺したいと思うほど憎む人間がいたとして、そう思うことと、実際に殺すことは違う、というほど違う。罪の重さや理性があるかないかの違い、というより、そこに生じる、その人の、”心の質”の違いです。
特に、この”質”は、動物や他の生き物に対してこそ、その人を顕します。
投げ落とされる瞬間の子猫の恐怖、救いを求め、生きたいという思い、それらを想像できないあなたの”心の質”は、おそらく、ある種の特権意識に座しているものなのでしょう。だから、避妊手術も殺すのも同じという発想になる。
私は長年犬や猫に関わって、多くの人と接してきて感じているのですが、どんなに知性や愛の尊さを知っている人でも、その人が特権意識に従う、あるいは甘んじていれば、まず自分以外（自分に利益をもたらすものも自分として）のものには決して心を開いてみない。開かなければ、目の前の存在の必死な思いなど感受できるわけがない。
生まれてきたものは、例え猫一匹としてももはや、生きる意志、本能、あらゆる感情を持っている。生まれていない存在とは違うのです。特権意識は、感情を持った存在と、まだ形のない存在のものの違いも見ようともしない。

残念です、とても残念です。あなたの発言は、あなたと同質の特権意識に座している日本人の意気を高め、人知れないところで、猫や犬やその他の生き物の生命など殺すことが当然となり、１００年は一気に逆戻りするでしょう。そのことを嘆きます。本当に残念です。

こんなことを長々と書いても仕方がない。
また、坂東真砂子という、自分の選択を表したに過ぎない人を罵っても仕方ない。
私もまた選択しているに過ぎないだけなのだから。私は殺さない。生まれたものは生きよ、と願う。祈る。
避妊手術という罪を選択する。
そういうことだ。

それにしても虚しい気持ちでどうしようもない。
坂東氏の身勝手極まりない粉飾にしか感じない言い草も、捨てられる猫や犬の親を探す痛ましい声が聞こえ、聞こえれば誰だって助けに行くだろう、それに呼応しているだけの自分も、天の下では同じ、というのは真理だと知ってるからだ。そうして尚、声が聞こえるとどうしようもなく哀れでならなくこうして多くのものを失ってきた自分の虚しさ。

自分の飼い猫が産んだ子を、崖下に投げ捨てるとは、愛護精神や道徳がどうのなどはどうでもいい。ただただ哀れで辛いよ。坂東さん、どうしてくれる。あなたは粋がって気が済んだかも知れないが、とんでもない痛みを落としてくれたね。

- - - - -

追記
あるブログに、この人は自分の飼い犬が生んだ子犬も殺しているとあった。日経新聞に自分でやはりエッセイにされているというから事実だろう。
私はある面、こういうポリシーもある、と理解したつもりだったが、もしかしたらこの人はそういうことではないかもしれない・・・異様な気がしてきた。