第三十六回 豊臣の子

秀吉(柄本明)は淀君永作博美)が産んだ我が子鶴松が死んで、人目にも異常に映るほどの失意の日々を送っていたが、明国に押し入り攻めることを思いつき、母なか(菅井きん)や妻の北の政所(浅野ゆう子)がとめても聞かばこそ。まして家来の山内一豊上川隆也)が制止などできるはずがない。
北の政所は千代(仲間由紀恵)にため息交じりでこう言う。
「あの人は百姓あがりで引け目をもっているから、人に背かれるのが怖いのじゃ。それで常に戦をして、召し上げた領地を下のものに与えておかなければ不安なのじゃ。」
そしてついに秀吉は、肥前名護屋城に淀を同行させ向かう。加藤清正なども一緒だが、一豊は、秀次(成宮寛貴)について残る。秀次は、関白になっていた。秀吉の跡を継いで、立派に天下を治めようと学問に励む。秀次は、これからの大名は学識が必要と考えていた。
一豊は、学問に重きを置く秀次の守り役としてなれぬ書物を読んで勉学に励もうとするが、本来不得手な分野だからなかなか身が入らない。
そんな一豊に千代は強く言う。「これからの世は、人の心を読むことが功名につながることです。しっかり励んで下さい。」
「人の心を読むなど、わしは苦手じゃ。」とそっぽを向く一豊。
「いいえっ、だんなさまならおできになりまする! きっ!」
「お、おおお、お?!」(こうは言いませんが、こんな感じ)


名護屋城では、唐での大勝利に秀吉は浮かれている。その隙をぬうように石田三成中村橋之助)の部屋に入込んだ淀が、「大坂に戻りたい。」とだだをこねている。
「わらわが留守の間に、北の政所さまと秀次殿がいいようにするに違いない。そうはさせたくない。なんとしても、もう一度子を産む。三成、我を助けよ。」と妖しい眼差しで三成を見る。三成の目も妖しく光る。(ドッシャーッ!)


大坂では秀吉の母なかが危篤状態で臥せっている。なかは秀吉が戦を止め唐から帰るのを願っている。そして、千代に障子を開けさせる。真っ白な朝ぼらけのような光がさし、それから庭のすみずみを澄み渡らせる。そこにはなかが植えたナスが紫に輝いている。
「藤吉郎はナスが好きじゃ。あれを食べさせたいのぉ。」
これがなかの最後の言葉だった。
駆け戻りなかの死に号泣する秀吉。ナスを齧り泣き続ける。


なかの死の半年後の文禄二年一月。ひろいが千代のところに、「表でお侍がこれを・・・。」と紙に包んだものを差し出す。千代が開いてみると、丸い(ナンダロ? 六平太とのゆかりのもの。)ものが入っていた。はっとする千代。
千代は六平太だとすぐにわかる。
表に出ると、老いて腕を怪我した六平太(香川照之)が立っていた。六平太は、唐の戦に行っていたのだ。
「秀吉さまは負ける。」と六平太は言う。
「最初に勝ったのは、唐が思いもよらくことで慌てていただけ。それはもうむごくひどい戦。みんな疲れきって己を失ってきている。加藤清正も誰も。」
そして六平太は、「山内さまが唐に行かれなくてよかった。」と微笑む。何かを洗い落としたような感のある六平太である。
それから六平太は、「人間は千代さまのようなもおばかりではございませぬ。北の政所さま、淀殿、徳川殿を見られよ。虚と実の間を行き来して生きておられる。これからはかけひきで世の中が動いていく。情にとらわれてはいけませぬ。情にとらわれては生きてゆけない世が近づいておりまする。」と言って去る。(六平太はカッコイイ! ちょっとかっこよすぎ?)


さてさて、再び名護屋城。黒田官平衛(斉藤洋介)が秀吉に最上の報告を持って駆けつけてくる。
「ひでよしさまーっ、淀の方さま、ごかいにーん!」
「うえーっーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
狂喜する秀吉。
文禄2年8月。おひろいサマ誕生である。(ジャジャジャーン!)


大阪城。秀次がお祝いに駆けつける。
「秀次、留守の間ご苦労であった。」
「はい、諸大名が私の力になってくれました。」と屈託なく涼しい眼差しで答える秀次。
『諸大名が私の力に・・・』で目をぐっと鈍く光らせる秀吉。劣等感の塊の気の小さい男は、ここで躓くのだ。
秀次が何の野心もないことをわかっていてそうなのだ。哀れな男だ。・・・(というようにはここで特別描いているわけではありませぬが。)
それを察知した三成は秀次に言う。「太閤さまに何くれご相談されるのが肝要かと。」
「そうじゃ、そうじゃ、そうしろ。」と淀んだ光を目にためて秀次を見つめる秀吉。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」何やらかを感じ取った秀次。繊細な眼差しが翳る。


おひろい誕生の報は掛川の千代にも一豊からもたらされる。
「おひろい様の産着を千代に縫うてほしいそうじゃ。」
「・・・はぁ、わかりました。」
何となく顔を見合わせる二人。一豊は秀次の守り役で、秀次は千代を慕っている。一豊夫婦も秀次を大事に思っている。このことが何か不吉なことになりそうな予感がしてならなかったのだ。(来週に続く)