第三十八回 関白切腹

今回は千代(仲間由紀恵)と一豊(上川隆也)に主役らしいスポットをあてて、二つの別れを描いている。
ひとつは、関白秀次(成宮寛貴)の死による別れである。


一豊が秀吉(柄本明)の命令で、聚楽第に秀次を迎えに行くのだが、そこに突然千代が登場して、夫が「すぐに伏見に行って秀吉様に・・」と言ってるのを尻目に、「秀次様、秀吉様のところに行ってはなりませぬ。ご出家あそばして下さい。そうすれば命は助かりましょう。」などと言うので、いかに千代の味方の私といえども思わず森光子さんのようなデングリガエシをしそうになった。
この場面は、秀次の若い忠義の家来たちや一豊に付き添ってきた祖父江新一郎(浜田学)も入り組んで、わぁわぁぎゃぁぎゃぁぎゃぁ、あわや一豊夫婦が切られそうになるなどひと悶着もふた悶着もあったが、最後は秀次の決心でおさまった。秀次は、秀吉に殺される”さだめ”と知りつつ伏見に行ったのである。


伏見での秀次と秀吉の対決、秀次はかっこよかった。
彼は、関白としての”最後の仕事”を果たしたのである。つまり、明征服を企んだ秀吉のために向こうへ行ったままになっている兵を帰還させるように言い渡したのである。これはこのドラマ独自の演出だろうか。原作を読んでないので(昔読んだつもりだったがひとつも覚えているところがないので、読んでなかったに違いない)わからないが。
秀次のためにこのくらい立派な最後の仕事をさせて下さり、大石様、演出様、ありがとうございます、と私は礼をしたくらいである。何もないままボンクラ秀次で終わったらほんとに可哀想だ。秀次自身が千代に「私は、秀吉様の出世のためにこの世に生まれてきたようだ。」と言ってたが、その通りのむごい人生である。


むごいのは秀次の死で終わらなかった。
淀君永作博美)が秀吉にしなだれかかって言うのである。「聚楽第を壊して下さい。あの中に住んでいた者をみんな殺して下さい。」と。その結果、秀次の妻、側室、赤ん坊、幼児の子供たち総勢39人が秀次の晒された首の前で惨殺されたのである。(秀吉も淀君もきっと今も地獄であがいているだろう。・・・これは私の独言)


ふたつ目の別れは、千代が城の前で拾い、拾と名づけて本当の子供のように慈しみ育ててきた男の子を寺にやるのである。一豊も拾を可愛がり、最近は、「自分の跡を継がせたい。」と言うくらいになっていた。
ところが、そうであればあるほど、家来の中で、拾は出生のわからぬ捨て子なのに、主君になるなどとんでもない、主君は山内家の血筋でなくてはならない、という者がでて、城の雰囲気がおかしくなってきたのである。
祖父江新兵衛(前田吟)も拾が跡を継ぐのは反対で、またいつもながら突然千代の前に現われた六平太(香川照之)も、「拾を世継ぎ騒動に巻き込むな。」と言う始末。


秀吉家の悲劇が我が家に襲っては大変と、千代と一豊は相談しあい、ついに拾を出家させるのである。
拾は哀れであった。一豊を尊敬し、父上のような武将になりたいと、日夜剣術に励み、学問に親しみ、それはそれは賢く立派な子であった。
その夜、その拾に、父は言うのである。「わしは功名をたてるために、多くの人の命を奪ってきた。拾よ、お前が出家して、わしの業を清めてくれ。」と。千代もそれに頷く。・・・まったく現代だったら、日本中のブロガーに罵詈雑言を浴びる仕業だゾ!
尊敬する父と、慕う母に言われて、拾の目から滂沱の涙。(名演! もらい泣きしました!)
そして言う。「わたしが捨て子だからですか?」
拾は全てを知っていたのだ。彼が懸命に武術に励み、学問に打ち込んでいたのも、こうした日の来ないことの祈りの表れだったのかもしれない。そう思うと一層哀れで、今夜ばかりは千代夫婦が大っ嫌いになった、ダ!


でもこの時代、千代のセリフには一理ある。
千代は、「私たちがお前を可愛がれば可愛がるほど、お前を恨むものが出る。だが、山内の家の業を消すために、自分の身をもって出家すれば、お前はみんなから感謝される。」と言ってやはり滂沱の涙である。
現代におきかえればバカ夫婦の言い草となるが、確かにこの時代はこうなのだろう。痛ましいが黙って観てるしかないのであった。


拾が家来(故吉兵衛の弟、エート、名前は忘れたけど、役者名は小倉●●)に付き添われ、家を出る拾。そこにおちてきた大きな綿雪。綿雪は次第に降りしきり、その中を去っていく拾。