戦場に消えた夫

千代は一豊から、小りんとのことを聞かされ、美濃の育ての親である伯父の家、不破家に戻ってしまう。伯父とその妻はそれぞれに、戦地に行く夫を理解するようにと千代を諭し力づける。そこに聞こえる出陣を告げるほら貝の音。千代は急いで家に帰るが、一豊主従は戦いに出た後だった。悔やみ、夫の無事を祈る千代。


その頃、一豊は、長政の陣に打って出ようと、近江の姉川を馬で渡っていた。が、鉄砲の弾に驚いた馬が騒ぎ、一豊は鎧を着たまま深水に落ちてしまう。沈んでいく一豊。懸命に一豊を捜す五藤吉兵衛、祖父江新右衛門。戦いは徳川家康の功で勝利したが、一豊はついに見つからない。
自分が嫉妬して家を出、一豊の武運を祈らずに戦地に出したことを、烈しく悔やむ千代。この場面の仲間由紀恵は、真実味のある演技で胸を打つ。
秀吉は、一豊の葬儀を出すことを決意する。一豊の死に抜け殻のようになっていた千代が、凛として葬儀を受け入れようとする。この場面は、千代の内面が大きく成長していくことを示して、千代の健気さが美しい。
それだけに、一豊がどのように帰ってくるのか興味がつのった。雨の夜、孤独と寂しさと悲しみと切なさをにじませた後姿を見せ、一人いる千代。ザーザーと雨の音がする。その雨音にまじって、「ちよーっ!」と呼ぶ一豊の声。ここの上川隆也の情感溢れる声の色っぽくも男らしいこと! 雨の中飛び出す千代。一豊の死を受け入れられず苦しんでいた五藤吉兵衛と祖父江新右衛門も声を聞き、千代の後を追う。
雷雨の下、杖にすがった総髪の一豊を抱きしめる千代の胸のうちは、喜びで息も止まらんばかりであったに違いない。功名が立てられなかったことを詫びる一豊に、千代は篤く答える。「命さえ持ち帰ってくだされば、それが全ての種(たね)になるのです。」・・・このセリフは千代の生涯の真摯な願いであり、またこのドラマの”核”を表しているのだろう。命、平和の大切さの想い。


こうして千代と一豊は生きて再び会えたのである。舞台なら「ゆ・き・え!」「か・み・か・わ!」と声のかかるところ。この回で、仲間由紀恵上川隆也のキャスティングは素晴らしい成功だったことを証していると思った。二人の情熱的な曇りのない目と瑞々しい演技は魅力的だ。
面白いのは、柄本明浅野ゆう子の秀吉と寧々。特に浅野ゆう子の寧々は、寧々としてこれまでにない個性を出していると思う。夫に天下をとらせる女の器量というものは、このくらいのふてぶてしさを秘めているのではないかと納得させる。