最終回スペシャル『桜田門内の変』

「あ、お気に入りの監督、和泉聖治さんの演出だ。」とすぐにわかるテンポで、右京さんと薫ちゃんが、若い女性を狙った猟奇事件の殺人犯人『藤木孝』を追いつめるところから、最終回スペシャルははじまる。この藤木孝がいいんだよなぁ。この俳優さんは、ずうっと昔、たしか東宝で、繊細で洗練された都会の青年役でかなりな活躍をされていた。踊りも上手で、しかも超モダンな印象が残っている。とにかくカッコヨカッタ人だ。一時姿を消されて再登場をされてからは、病的な色合いを含めた悪役などをされていたように記憶している。『相棒』で久々に藤木孝さんの登場を観たのであるが、都会の鋭角的なジャングルの奥深くで独特の刃を研ぎ病んだ現代人の雰囲気を湛えて、しかも眼光の冷たさはかのハリウッド映画の殺人博士と並ぶインパクトがあった。
留置場の刑事になることを切望している若い看守(?)を眼光で操り、口中から差し歯を一本抜いて渡す場面の気持ち悪さったらない。
その歯は青酸カリが仕込まれている。それをにぎりしめる看守の思いつめた表情。・・・これに平行して、小倉久寛扮する刑事の行動を追う。小倉刑事は、藤木を捕まえた折、青酸カリ入りのびんを見つけ、それを鑑識に渡そうと思いつつポケットに入れる。小倉刑事は、どうやら有能な刑事であるらしいのだが、相当なマイペース派でしかも見かけだけでなくヌーボーとしたうっかりやのようである。右京さんのことを思うと、人のことは言えませんが、ま、カワリモノ刑事なのである。
小倉刑事は、切れ者の女性監察官、田中美里に呼びつけられ、マイペース行動を自粛するよう注意を受けるのだが、これも意に介せず、それどころか、田中監察官に、青酸カリ入りびんを「鑑識に渡して下さい。」と渡し、本人はせいせいとしてそこを出る。
さて、もう一人、重要人物がいる。刑事の高橋和也である。私は8時からはじまるこのドラマを、夫の就床の準備介助に追われながら観ていたので、この高橋刑事の動向を見落としてしまったのだが、とにかく、和也刑事も青酸カリを手にしているのである。つまり、”警察の人間が三人青酸カリを持って”いて、しかもその三人が、ヌーボーとして風采のあがらぬバカかリコウかもわからぬ小倉刑事を殺そうと企てるのを、視聴者はわかるのである。


かくして、『桜田門内の変』は起こる。美里監察官は、警察の音楽隊に入りたい希望の小倉刑事がトランペットを持っているのだがそのトランペットのマウスピースに青酸カリをぬり、和也刑事は小倉刑事の机にあったタバコの吸い口を青酸カリにひたす。看守は後にわかるのだが甘党で糖尿病の小倉刑事が隠し持っている菓子に青酸カリを注射器で注入する。


結果、三人の死者が出る。死んだのは狙った小倉刑事ではない。
そうです! 当然です。だからこそ我らが右京さんと薫ちゃんの犯人探しがはじまるのです。ジャジャジャジャーン!


小倉刑事、美里監察官、和也刑事、刑事になることを夢見ている看守、それぞれにはまっていて好演で面白く観た。とにかく、笑わせてもらった。シリアスなドラマに仕立てたこうした笑いの計算はさすが和泉演出と思わせる。
ただ大きな不満がふたつある。藤木猟奇殺人犯のあの不気味な冒頭がそれほど生きているとは思えなかったことと、小倉刑事がなぜ狙われたか・・・放送後だから明かしていいですね・・・要するに、何事も我関せずの小倉をはさんだ、美里、和也の三角関係という単純なものなのだが、単純は成功なんだけど、どうもこの三角関係のインパクトはいまいちでしたね。こうしたシャレの鋭さがなかった。


とはいえ、右京さんと薫ちゃんとのしばしの別れを惜しむに充分の楽しさでした。薫ちゃんがめでたく結婚をした! というエピソードもまじえ、今後のシリーズの含みもあってよかったです。


水谷豊さん、寺脇康文さん、これまで、素敵な水曜日をありがとう! またの登場を待ってまーす!!!