第十七回 新しき命

長篠の戦いの翌年、天正4年の春。信長(舘ひろし)の本願寺虐殺の後で、決して穏やかとはいえない時代であるが、長浜の山内家は幸せに満ちている。千代(仲間由紀恵)は臨月に近いおなかをして、一豊(上川隆也)の母、法秀尼(佐久間良子)と千代の母代わり、きぬ(多岐川裕美)がせっせと産着を作っている。一豊は、男の子の誕生を楽しみにしてご機嫌である。
新しい命が生まれる喜びに満ちているのは、堀尾家、中村家も同じである。おりしも、中村家に男児が誕生したと、堀尾家のいと(三原じゅん子)がやはり大きなおなかをかかえて報告に来た。・・・・・ここでの仲間由紀恵をはじめみんなの表情は、生まれ来る赤ん坊への愛情と期待に大らかに輝いていかにも優しい。


こうして家臣の家は子供に恵まれたのであるが、秀吉(柄本明)の家ではその兆しはなく、寧々(浅野ゆう子)との間も何となくぎこちない。寧々は、「子供が出来ないのは、お前様のせいだ。沢山の女子とつきあっても誰も子供ができないのだから。」という意味のことを言い、秀吉の神経を逆なでする。
また秀吉は、妹の旭(松本明子)のことも気にかかる。夫の源助を長篠で亡くした旭が放心状態のままでおかしいのだ。秀吉は旭を副田甚三郎(?野口五郎)と結婚させようとする。だが副田は「女房の縁故で出世をしたと言われるのは嫌だ。」と言って断る。秀吉は「上意だ、受けないなら切腹だ。」と恫喝したり、「旭が不憫なのじゃ、救ってくれ。」と泣き落とそうとする。それを冷ややかに見ている寧々(浅野ゆう子)。・・・・・秀吉の家は一豊の家とうってかわって暗く沈んでいるのだが、役者さんの演技もその対比をよく出している。


秀吉は、竹中半兵衛筒井道隆)の家を訪ねる。半兵衛は病が進み顔色も悪く、自分の死期を悟っているかのようである。その半兵衛が指針する。「毛利をおとし手にいれるには十年かかります。上様(信長)の最大の敵は毛利ですが、その前に上杉を。」秀吉、驚いて訊ねる。「上杉が上洛するというのか!?」半兵衛は、まだ実際はそれはないと答え、「柴田勝家様(勝野洋)にお力添えをなりませんように。」と言う。・・・・・・ここら辺の史実がさっぱりわからない私はよく意味が飲み込めなかった。だが、筒井道隆の半兵衛は、知略に長けた軍師というより、学者という理知を感じ好感が持てた。病のために頬がこけ、清明な瞳をして、かっての市川雷蔵を彷彿とする美を感じた。


信長をめぐる情勢に人一倍関心を持っているのは六平太(香川照之)もそうである。湖の岸辺に佇む千代のそばに、六平太が近づく。六平太は、毛利と上杉を探ってきたという。そして、秀吉と柴田の対立、明智光秀坂東三津五郎)との対立を予言者のように言う。「信長様の近くで内紛がある。」と。ここで産気づく千代。


千代は女の子を産む。六平太は戦地(どこ?)にいる一豊に知らせに行く。一豊は、無事に子供が生まれたと聞いて喜ぶが、女の子と知って複雑な表情をする。それでも、千代が女の子だったら『よね』と名前をつけたいと言っていたことを許す。


この頃、秀吉の家では、旭と副田の婚儀が執り行われた。めでたいはずであったが、ある日、副田が暗い顔をして千代を訪ねる。「旭の様子がおかしい。いつもぼんやりとして、返事もハァ?というだけだ。」と訴え、千代に、旭を元気付けて欲しいと頼む。
旭の前の夫の源助を死なせた責任を感じている千代は気が重いが旭に会う。千代が行ってもぼんやりと空ろな表情の旭。千代は、「私を打って下さい。」と言う。千代の頬を打つ旭。その後、尚気力を失ったようになる旭に千代は懸命に言う。「赤ん坊は、おなかがすけば泣き、おなかがいっぱいになったら笑います。小さな体いっぱいに生きております。私は戦で父を亡くし、母を目の前で斬られました。乱世に生きるものは、誰も辛い。だからこそ、赤ん坊のように、怒りたい時は怒り、嬉しい時は笑って生きたいのです。」
じょじょに、旭の目が千代にむき見つめる。そこに副田が来て言うのだ。「そうだ、千代様の言われたことは、私が言ってやるべきことだった。旭、すまん。無理に結婚をさせられ、怒るのだ。思うことを言うのだ。」と旭を受け止める。旭は本当に赤ん坊のように大声で泣き、堰を切ったように言う。田舎で育った自分に、寧々様にあれはいかん、こうしてはいけない、と言われてきたことの辛さや耐えていたことの心のつかえを、夫の胸にすがって吐き出す。千代はそおっとその場を去る。千代は何も言わなかったが、「副田と旭はいい夫婦になるにちがいない。」と安心したことだろう。・・・・・松本明子の熱演は心情がよく出ていて胸を打った。また放心していた時、背中を見せて空をぼんやり見上げていたが、その背中がなんともいえない孤独感を出していた。


一年が経ち、よねが一歳になった頃、一豊が戦地から帰ってくる。よねを愛しそうに抱く一豊。
一豊が千代に、「明智どののまき(烏丸せつこ)様が千代に会いたいと言われていた。坂本城でお待ちだそうだ。」と話す。
千代は、坂本城にまきを訪ねる。そこでかって、自分の家のそばで、男の子にいじめられていた少女を助けた、その少女、光秀の娘、玉(長谷川京子)と会う。千代は、玉の美しさに驚く。この玉が、後に悲劇の細川ガラシアとなる人とは千代は知らない。
光秀は、千代に、「上様は新しきものを創ろうとされるお方。」と言う。千代が、「信長様の何を認めて仕えておられるのか。」と訊くと、光秀は、「上様は、人の上に立つ天賦の才をお持ちだ。」と答える。「人の上に立つ才は、明智様もでしょう。」と更に千代が言うと、「それがしと筑前(秀吉)どのは、迷いがある。上様はその迷いがない。真に人の上に立つ者は迷いがあってはならない。迷いは人の情をおこさせる。それでは人の上には立てない。」と言う。・・・・・このドラマの光秀は哲学者であることを表すかのような三津五郎の穏やかな口跡が印象的であった。


さて、信長であるが、まさに神がかった言動と勢いである。鉄砲の弾を受けた傷を痛いとも思わぬ信長に恐れと不安を抱く妻の濃(和久井映見)は、「傷の痛み感じぬ者に、民がついてくるわけはない。」と諌める。「私は斉藤の人質として来た身、もはやその役目は終わりました。それなら、何人も言えぬことを殿に言います。人の心を忘れてはいけませぬ。」
その濃の言葉を、背中で激しく拒絶する信長。・・・・・ここのストップモーションで見せた信長の背中は、生き急ぐ信長の孤独と死の悲劇を暗示しようとしたものだろうか。


やがて、信長の強烈な命によって、竹中半兵衛が決してしてはならないと指示した、秀吉と柴田勝家の対立に運命は押し流していく。信長の命を足で蹴ったような行動に走る秀吉。
<ジャジャーン! 来週の秀吉の運命やいかに。秀吉の片腕の一豊と一族の運命は?>


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こうして筋書きを書いていくことを定着させてしまい、我ながら疲れるゾ!
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