第十九回 天魔信長

今週は、タイトル通り、安土城の美しい天守閣の中で”神”となった信長(舘ひろし)と、信長の狂気(天魔)の足下で、人間としての苦悩や煩悩に苦しみ悶えあがき生きる人々の姿、そして竹中半兵衛の死を描いている。


■千代(仲間由紀恵
夫が戦地に行って留守を守っている千代。現役を引退した祖父江新右衛門がよねのお守りをするのを見守り幸せそのものである。美しい微笑。
だが、千代に大きな悲しみが襲う。竹中半兵衛の死である。千代は半兵衛の危篤を知らせに来た祖父江新一郎(浜田学)にこのような文を言付けている。
『私は、半兵衛様を、実の兄と敬いお慕いしております。半兵衛様は、女子といえど、信じる志に従って生きよと、そして恋しいと思う人と添い遂げよ、と言って下さいました。』
今週の物語のラスト、千代は朝の庭を掃いている。空高くにとんびがひゅるるるる〜と舞う。「千代どの・・・・・」深く静かな半兵衛の声が届いてくる。はっと振り返る千代。静寂。千代は知る、半兵衛の死を。


山内一豊上川隆也
中国の陣地にいても一豊の胸は晴れない。前の戦いで女子供まで槍でついた記憶が、一豊に、『功名とは何か?』という問いを常に投げかけてくるのだ。
また、荒木村重が謀反を起こしたと伝えられ、秀吉とともに摂津の荒木を訪ね、謀反を思い直すように説得に行くのだが、その時、秀吉は荒木の手を握り、号泣して謀反の翻意を訴え、一豊は感極まる顔でそれを見つめる。だが、直後、秀吉は、「芝居じゃ。」とケロリとして言う。唖然とする一豊。
一豊は、今際の際の半兵衛に、千代の文を読み、半兵衛を看取る。


■五藤吉兵衛(武田鉄矢
純粋で繊細な一豊が、戦で人を殺すことに傷つき、「功名とはなんだ?」と問う時、吉兵衛は心をこめて篤く答える。「功名とは、千代様、よね様、家臣と家臣の家族、みんなが幸せになるための働きのことでございます。」


■祖父江新右衛門(前田吟
一豊と千代の子供よねを慈しみ守をする毎日。新右衛門の慈愛の視線は山内家のみんなに注がれている。


■六平太(香川照之
六平太は、視野を広く持ちつつ生き方を探っている。信長は思い上がっていると思う。一豊に、「信長をお見限りませぬか。」「毛利につきましょう。」と誘う。信長に仕えていると、いずれ千代もよねも殺される結果になると洞察しているのだ。
この六平太に対して、一豊は、「わしは疑わぬ。お前とわしは違う。」と言い切る。だが一豊は、どこかいつも六平太に圧倒されているものを自覚する。


■秀吉(柄本明
一豊をいつも右腕とし、重要な場面ではいつも連れていく秀吉こそ、一豊に圧倒的に影響している。今週は、結果的に謀反人となった荒木村重を説得に行った時、秀吉は村重の手を握り締め号泣して諭すのだが、別室に入ると、一豊に、「あれは芝居だ。」としゃあしゃあと言い切るのだ。この場面は、後の一豊に秀吉への陰をさす要因のひとつとなったのではないかと思う。


明智光秀坂東三津五郎
光秀は信長に重く用いられているが、娘二人は人質のような結婚をさせる運命になる。ともは今週の物語中、謀反を起こすことになる荒木村重に嫁ぎ、今また、聡明で闊達で美しい娘の玉(長谷川京子)を細川藤孝近藤正臣)の嫡男忠興に嫁がせるように命令される。そして、信長に、「安土を拝め。」と言われる。光秀は、信長の独善、傲慢の前に、虚しさとも悲しさともつかぬ思いが日に日に強くなっている。


■濃(和久井映見
虚しく悲しい思いに耐えているのは信長の妻の濃も同じである。濃は、安土城が、多くの名も無き人たちの怨念の上にたっていると感じてならない。でもその自分の思いは夫信長には通じない。孤独を抱きしめつつ笛を吹く濃。笛は父斉藤道三から習ったもので、従兄弟の光秀もともに習った。濃はいつしか光秀を、同じ心を持つものとして強く慕うようになっている。


■市(大地真央
市は、濃と光秀が微妙な間柄であるのを見抜いている。それに釘をさすように濃に言う。「私は織田の女。たとえサル(秀吉)でも光秀様でも、織田を脅かすものは敵。」と。


荒木村重ベンガル
村重は、謀反人となるのだが、それは結果的にのことであった。村重の家来が兵糧米を売ってしまい、その修復ができないまま村重は毛利と通じ、決定的に謀反人となる。秀吉や光秀が、思い直せば助かる、言い分をと説得するが、村重は冷静に言い切る。「もうおそい。信長様にわしはもう必要ない。信長様は人の心のわからぬ方だ。気まぐれに許しても、いつか蒸し返しなぶり殺しにされる。言い分はない、あるのは死だけ。」


竹中半兵衛筒井道隆
半兵衛もまた、信長の冷酷、思い上がりが、天下をとることを遠ざけていくことを知っていた。今際の際で秀吉に言う。「安土様に天下はとれませぬ。殿(秀吉)が天下をとられる。」と。半兵衛は、最後の最後まで秀吉のために心を尽くす。六平太をひそかに呼び、村重を説得に行ったまま帰らぬ黒田官兵衛斉藤洋介)を必ず見つけよ。死なせてはならぬ。官兵衛どのは、秀吉様に必要な方だ。」と言う。
そして半兵衛は、千代の文を読んで聞かせてくれた一豊に、このように言って静かに息を引き取る。「私は、千代どのから、生きて楽しむことを学んだ。私が生涯愛した女子は千代どのでござった。」
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★半兵衛について補足
これから東京まで行かねばならぬ慌しい時であるが、半兵衛の上の最期の言葉についてどうしても書き足しておきたい。

半兵衛のこの言葉は普通に考えればありえないことで、「え?! 何を言って死ぬつもり?」とのけぞってしまいそうになる告白であるが、これまでの物語の中で、半兵衛が千代に清廉な思いを寄せていたことは観ていて伝わってきていたし、筒井道隆清明さがこの最期の告白にリアリティを持たせていたと感じ、そのことに気持ちが揺れ満ちていくのを覚えた。半兵衛イコール筒井道隆が内包している精神の豊かさに寄るものだと思う。私はこのドラマであらためて筒井道隆の可能性のようなものを感じた。
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