第二十回 迷うが人

天正6年2月 別所長治謀反。
同年10月 摂津の荒木村重謀反。
織田信長舘ひろし)へ反旗を翻す者は多くなり、それに対応する秀吉(柄本明)も危機を迎えていた。
そして天正7年7月
千代(仲間由紀恵)は、娘のよねと遊ぶ少年を見つめている。この少年こそ、荒木村重のもとに最後の説得役を託して秀吉が送った黒田官兵衛斉藤洋介)の嫡男松寿丸である。寧々から一豊(上川隆也)と千代が預かっているのだ。
官兵衛は有岡城に入ったまま帰って来ない。あれから八ヶ月が経っている。秀吉の重臣石倉三郎)は、「官兵衛は寝返ったのだ。」と言う。「そんな方ではない!」と一豊は激しく否定する。秀吉の弟秀長は、「斬られたかも知れぬ。」と言う。秀吉は、「官兵衛は裏切る奴ではない、この話はもうしてはならない。成敗するぞ。」と家臣を制する。


が、信長の命令が下った。「松寿丸を切れ。」と。秀吉は一豊に、「信長様の命令には逆らえない。消せ。」と命ずる。立ちすくむ一豊。
この頃、山内家に、毛利についていなくなった六平太(香川照之)が突然姿を現す。驚く千代。
夜になって、就床していた千代のもとに一豊が戻ってきた。一豊は厳しい表情で、「松寿丸はどこだ?」と訊く。千代はおもむろに「流行り病で死んでしまいました。」と答え遺髪を見せる。
千代は、六平太から、「官兵衛は有岡城に幽閉されて生きている。」ことを聞き、また松寿丸が信長の命令で殺されることもあろうと既に別の場所に隠していたのだ。
一豊は秀吉にそのことを告げる。秀吉は、一豊に、子供を殺したと嘆く芝居をさせる。信長の耳に入るようにするためだ。嘆く一豊を見て、中村一氏(田村淳)は、「またこれで禄が増える。」と悔しさと蔑みを見せて呟く。その言葉に一豊は烈しく感応し、「禄などいらぬ!」と迫る。たじたじとなる中村。・・・ここの一豊の怒りは、子供(松寿丸)の生命を守ってやれないかもしれない己と運命への怒りであったような気がする。上川隆也のぎりぎりに追い詰められた者の表情が痛々しくそれを訴えていたと思う。


やがて荒木村重は城を捨てて逃げ、幽閉されていた官兵衛は自力で歩けない身体になって救出される。
信長は一豊に、「官兵衛の忠義に報いよ。」と金子の入った袋を投げ、「松寿丸に会わせたかったのお。」とも言う。
一豊は応える。「松寿丸様は生きておられます。私は上様の命令そむきました。いかようなご成敗も受けます。」とひれ伏す。信長はきっと振り向くが、「生きておったか、会わせてやれ。」と答え、一豊の罪を問わなかった。が、荒木一族への怒りは凄まじく、女子供に至るまで磔かなぶり殺しにした。
こうして荒木村重の謀反は平定された。


天正7年12月、もう一人の謀反人、別所長治の三木城は、秀吉によって兵糧攻めにあっていた。
一豊の陣地では、祖父江新一郎(浜田学)たちが、ただ敵が降伏するのを待っているだけだから退屈だ、というようなぼやきを言っている。五藤吉兵衛(武田鉄矢)は諌める。「城の中は飢餓地獄になっている。」「秀吉様は頭のいい方じゃが酷い。武士は誠を持って戦わねばならぬ。」「別所はよく持ちこたえている。敵ながらほめてやりたい。」


その別所長治がついに降伏をした。城に入った一豊は、人々の飢えの惨状に息をのむ。城主の長治や重臣たちも飢えのために衰弱していた。その長治に一豊は言う。
「長治様とご重臣の方々には腹を召していただかねばなりませぬが、他の者はみな助ける。」と約束をする。そうして長治たちの命と引き換えに、ついに城の門が開き、人々がよろけながら外に出て、秀吉軍が準備していた粥をむさぼる。その群集の中に、盲目になった小りん(長澤まさみ)がいた。五藤吉兵衛が小りんを陣に連れて来る。


小りんは、吉兵衛とわかり狼狽して逃げようとする。「一豊様にこんな姿で会いたくない。」
だが一豊に見つかる。「なぜ三木城にいた?」と訊く一豊に小りんは、「あんたのためだよ、三木城に入って調べ、あんたに教えてやりたかった。」
そう言いながらも、小りんは、一豊に、「卑怯者!」と叫ぶ。「人間を干からびさせて、何がお天道様の下で生きるだ!」
一豊は答える。「血を流さずに戦いが終わった。」
「城の中には、木も草も木の皮も馬も食べつくした。死人の肉を食らうものもいた。血を流すのと何が違う。お前は真っ正直に生きていると思ったが鬼になった。私は盲目になってよかった。鬼になったお前を見ないですむ。私の目の中には、昔のきらきらしたお前のままがいる。」
小りんは、悲痛な声を残して去って行った。追おうとする吉兵衛を、一豊は、「追うな!」と止める。まさに一豊の顔は鬼になったようであった。・・・一豊がここで小りんから突きつけられたものがこの後どのように形作っていくのか、興味が深い。脚本の大石静は、現代に消え果てようとしている”魂の原石”を小りんに託して掌中の珠のように書いているような気がする。長澤まさみはそれに応えていると思う。


この武勲で、一豊、中村一氏堀尾吉晴生瀬勝久)は1300石の加増となる。が一豊と中村一氏の間の溝は深くなっていく。


三木城がおち、戦いがひとまず治まったある日、明智光秀坂東三津五郎)が山内家を訪ねて来る。以前に病床にいる光秀の妻まき(烏丸せつこ)に千代が薬草を持って見舞ったことの礼である。しばし語らう一豊と光秀。戦への疑問や迷いを訴える一豊に、光秀は答える。「誰もみな苦しいのではないか。武士は己の生命を惜しい者ではないが、人の生命を奪うことには迷いを持つ。迷わないのは上様だけかも知れぬ。」


天正8年、本願寺が降伏し平定した。安土城の信長のもとに重臣たちが連なる。誰もが大きな勤めを果たして得た平安に安堵した表情である。
そこに信長はいきなり雷光が轟くようなことを言い放つ。重臣林通勝刈谷俊介)と佐久間信盛(俵木藤汰)を追放する、と。驚愕の通勝と信盛。凍りつく全員。
罪状は24年前にあると言う。「林は弟信行を担ぎ予を亡き者にしようとした。」「佐久間は本願寺攻めの働きが悪かった。」という意味のことを言う。二人に罪がないことを皆が知っている。だが、誰もとりなそうとする者はいない。
信長は、「役に立たなくなった道具は捨て去るのみ。」と冷酷に言い放って奥に去る。「方々、これでいいのか!」追放される者の絶望の声が響く。・・・舘ひろしがはじめて能動的な演技をみせた場面だと思う。全員を凍りつかせる存在感があった。


天守閣で横になって瞑目している信長。
苦悩の色を滲ませて妻の濃(和久井映見)が語りかける。
「誰もが殿のお心がわからず苦しんでおります。」
「みなはわしをただ崇めればいいのだ。あいつらは弱いのだ。」
「弱き者、思い迷う者たちへの労わりも必要ではありませぬか。弱さ、迷いは人である証し、生きることそのものでしょう。」
濃の切々とした訴えに、目を開き、白い光を帯びた視線を濃に向ける信長。そして言う。
「光秀のようにか。そなたは光秀が好きか。」
蒼白になり、気を失う濃。


       ・・・・・・来週に続く
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緊迫感のある面白い週でしたが、ひとつどうもひっかかってなりません。信長を討つ、光秀の花道を作りすぎではないか、哲学者光秀を聖人にしすぎではないか、と。天才と聖人の対立は面白いのですが、このままでは絵に描いたような対立劇になりそうな・・・。聖人といえど、天才をわからず、わからないところに潜んでくる”魔の時刻”に逆らえなかった、ということもあります。信長が討たれる必然をここまで意味づける必要があるか・・・人間の起こす”結果”というものにこのように矛盾のないものにする必要があるか・・・など考え込んでいます。


と言っても、舘ひろしのそこにいるだけで刃物のような存在感と三津五郎の重厚さは素晴らしくいやでもひき込まれていく面白さがあります。余計な観方はしないで、ドラマを楽しもうとは思っています♪
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